【完】山崎さんちのすすむくん
それから俺は、琴尾を殺した奴を必死に探した。
町医の仕事もほっぽりだしてな。
ちっこい頃からおとんに叩きこまれた乱破の道を捨ててまでなった町医やったけど、そんなことすらどうでも良かった。
周りもあれが死んだんは知っとったらな、俺が看板を上げんでもなんも言わんかった。
あん時、琴尾の側におった男らからも話を聞いて。
『見つかる訳がない』
そう言われながらも俺は、諦める訳にいかんかった。
あれの命を……想いを踏みにじった奴を、このままのうのうと生かしとって堪るか、て。
俺が、殺るしかないて。
もう頭ん中は仇を討つことしかなかった。
勿論武士でもなんでもない俺がそんなことしたら裁かれるんはわかっとった。
それでも、乱破の技を使えば確実に殺れる。
なら殺らんでどうすると。
あん時の俺は、それしかなかったんや。
三条大橋近くの長屋の人らに話を聞いて回って。
ここらの言葉やない声を聞いたってのを聞くと、次は旅籠の屋根裏忍び込んで情報集めて。
そんなことを始めて十日程経った雨の晩に、俺は漸くそいつを見つけたんや。
べろべろに酔うたその男は連れに自慢するよに下卑た笑みを浮かべて言いよった。
『この前の雨の夜、女を一人殺った』ってな。
その日も酔っぱらっとったそいつは、たまたま四条を歩いとった琴尾を捕まえて自分の泊まる三条の旅籠まで連れてこ思たらしい。
それが思いの外抵抗されてもうたらしいてな、人気のない橋の下連れ込んだったんやーなんて……武勇伝みたいに語りよったんや。
すぐにでも、殺してやりたかった。
それ程までに人を憎めるなんて思たことなかったわ。
憎うて、憎うて、体が震えた。
奥底から湧く怒りに目眩すら覚えた。
せやけどそこは旅籠や。他の奴らもおるし店にも迷惑がかかる。
俺はなんとかその場を堪えた。
ほんでそいつが夜、外で一人になるんを待った。
それが、それから三日後のことや。