【完】山崎さんちのすすむくん
その身を抱き寄せ、安心するようにと背をぽんぽんと叩く。
元を辿れば巻き込んだんは俺の所為や。
俺が新選組の隊士であるが故に沖田くんとも絡むことになった訳で。俺が目を離したからこそこの下衆共に目をつけられる羽目になった訳で。
何事もなかったとは言え、これが俺の預かり知らぬところでおきていたらと思うと、今更ながらに肝が冷えた。
「もぉ大丈夫やから」
まるで自分に言い聞かせるようにそう呟いて、夕美の肩に顎を乗せる。
瞬間僅かにその体がピクリと動いた。
ただ、腕に収まる温もりと甘い香の薫りが優しく鼻を擽って、不思議と安堵する。
どこか懐かしいその感覚に吸い込まれるように思考が凪いで、通りの雑踏が遠くに聞こえた。
そんな時、
「す、烝さ……」
夕美がもぞりと体を捩った。
「ん?」
その声に頭を起こせば、丁度夕美もこっちを向いていて。
茹で蛸よろしく真っ赤に染まったその顔は、潤んだ瞳にいつもはない『女』を覗かせている。
そしてそれが思いの外──
「っ」
近い。
……落ち着け、何狼狽えとんねん俺。
思わずトクトクと早鐘を打ち始めた己の動揺をひた隠し、さりげなく身を離すと笑みを張り付けた。
「大丈夫か?」
「は、はい……大丈夫、です」
動揺したのは夕美も同じようで、そいつは前髪を触りながら僅かに顔を伏せる。
「……」
「……」
何となーく、空気が可笑しいんやけど。