ファイブコンプレックス
「ねえ、ちょっと歌うから、美樹伴奏してよ」
「え、あたし?」
「さっきやったとこでいいからさ」


美菜は手早く妹のギターを取り出すと、ん、と無理やり手渡した。
周りにはオジサンたち、みんな一緒にニヤニヤしてる。演奏を素直に待っているのか、それとも何かほかの別のものを期待しているのか。そんなことは何でもいいが、美樹は父親の前で演奏したくはなかった。

「ね、いいじゃん一回くらい」

うーと少し唸ってから、美樹は結局ピックを握った。


“もう何もいらないよ。無駄なものばかり目について、苦しい。
さっさと行っちまえ。目障りだ。誰とももう、話したくはないよ。”
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