ファイブコンプレックス
「父さん車出してるから、用意してこいな」


そう言って父は部屋から消えた。
慌ててギターの用意をしている姉を見、美樹は異常な苛立ちを覚える。

「ねぇ、何でまたあんなとこ行きたいわけ」

ああしまった、またはじまった。
つっかかるな。言い聞かせても、頭は理解しない。

「何でって、今日はうまくいきそうじゃない」
「私はやだよ。ああいうスタジオにはもう行かないって決めたから」
「まさか美樹、まだ引きずってるの、あの事を」

いつものように少し黙る美樹。すぐに当たり前だと、切り返せなかった。心のどこかで、バカにされる怖さに震えていた。
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