殺人姫
その時私はどうしたんだろう。いや、私の身体はどうしてしまったんだろう。

足の震えがピタと止まり、力さえ尽きたはずの手が力を取り戻し、革鞄の両端をギュッと握り締め、頭の前に掲げた。




ドスッ




力強い誰かに引っ張られたように、足が立つ事を成していた。
殺人鬼が振り下ろしたナイフは両手で握られていて、それに立ち向かった鞄の約10センチの幅をやすやす超え、約20センチ余ったナイフの先端5ミリが私の眉間に刺さった。

私自身、何をしているのか分からなかった。殺人鬼という、私にとって未知の世界の住人に鞄一つで抵抗したところで、あっちに殺す気がある以上、それは殺されるのに時間がほんのちょびっと延びただけに過ぎないだろうに。

もっと分からなかったのは。


「馬鹿なっ…こんな、クソッ!立ち向かってんじゃねぇよ女!テメェ何してくれんだっ!」

未だ優勢であるはずのこの殺人鬼が、狼狽え出したのだ。

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