殺人姫
「クソがっ!一日丸損だ、クソッ。とにかく、メイリーンになら―――女、お前…」

呼吸は、先と違い恐ろしく整っている。
足は肩幅、震えはない。
手は、ぎこちない。
先まで殺人鬼がこれを握り、私の脳髄に突き立てようとしていたが、今はそれが元の持ち主を向いている。
「…ハッ。女ァ、テメェもか…」
「ふ―――ふ―――…」
「テメェも、“器”の持ち主かョ…」

殺人鬼の目が、正気を取り戻したかのように濁り輝く。ただ、それが面白いものを見つけた子供のような好奇心に満ちた目だった。


ナイフを握る私が、ひ弱い女子高生だから怖くないの?それとも恐怖心がないの?
無いんだろうな、殺人鬼だもん。


―――もしも、このまま。


「はぁん?」

この人の心臓を刺せたとして、


正当防衛って成り立つのかな?
成り立つよね、私は被害者なわけだし。何より、この男を刺して、この男が死んでしまえば、私にとてつもない安堵感と、明日への幸せが訪れるはず。


「デコから血ィ流してニヤニヤしてやがる…」


早く、早くしなきゃ。




早く殺さなきゃ。

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