その瞳に映りませんように

「ユズキくん、ごめん……ごめんね!」


気がつくと、私はすごい勢いで彼に謝っていた。


「え? ど、どうしたの?」


彼は戸惑った声を発しているのだけど、まぶたは上がりきっておらず、どこか本気でそう思っていなさそうな目をしている。


でもそれは、単に彼の目の造形がそうなっているだけ。



「私、ユズキくんの目に色んな妄想をしてしまってました」


「はい?」


「たいして面白くもないし、こんなものだろう世の中は、ってな感じで世界を見てるようで。何かうらやましかった」


「は、はい?」


私の中に積もり積もった何かが消化され始めていくことを感じた。

彼は何のことやら分かっていないようだったけど。


西へ西へ向かっていく夕日は、空全体と私たちを柔らかい色に染めていく。


「だって、私ってバカに見えるでしょ? 悩みとかなさそうでしょ?」


「え……そんなことないよ」


「笑ってばっかりで空っぽな子って感じでしょ?」


「何言ってるの。そんなわけないじゃん」


彼は変わらず、まぶたを伏せ、視線をどこかへ移しながらそう答えた。


「ねえ、本当にそう思ってる?」


思わず私がそう聞くと、

はぁー、と彼から深いため息の音がした。


「……一応、ちゃんと思ってるんだけどなぁ」


彼はだらっと胡坐をかき、再び赤く落ちていく夕日に目を向けた。


私も「ご、ごめん」と再び謝ってから、彼と同じ方向を見た。



彼の目にも、本当はこの夕日がとても美しいものとして、映っているのだ。


< 27 / 30 >

この作品をシェア

pagetop