ハロー、マイファーストレディ!
念のため、久住について調べさせたが、今は毎日のようにハローワークへ通っているだけで、特に怪しい行動はしていなかった。
硴野や他の政治家とも、あの騒動以来、特に関わっていないようだった。

「透、俺が直接会う。手配してくれ。」

テープを公表すれば、硴野は簡単に失脚するだろう。目の上のたんこぶが一つなくなれば、俺にとっても願ったり叶ったりだが、簡単にそれを許すわけにもいかない事情がある。

再びこの騒動が注目されれば、当然のように人々は十年前の悲劇の少女の存在を思い起こすだろう。
姓を変えたとはいえ、マスコミは簡単に彼女を捜し当てる。
真依子は今や俺の婚約者だ。
政治家に人生を翻弄された少女が、政治家の妻になる。まるで、ドラマのような話だ。本当に偶然だろうかと、邪推する人間もいるだろう。
それは、大いに困る。何としても計画に気づかれる訳にはいかないからだ。

そして、何より俺にとって、真依子を再び好奇の目に晒すことは耐えがたかった。
婚約発表から一ヶ月、ようやく真依子は穏やかな生活へ戻ったところだ。
二人で過ごせば、まるで恋人同士のようにじゃれ合うこともあるし、俺にも随分と心を許してくれるようにもなった。
時折、思い出したように距離を取ることもあるが(良い雰囲気で海岸沿いを歩いていたとき、突然手を離せと言われた時はさすがの俺も凹んだ)、契約だろうが何だろうが、この先彼女と人生を共にすることに変わりは無い。

彼女は、もう一度、俺の手を取ったのだ。
その理由がたとえ、先に契約を結んだからという、単純なものだったとしても。
復讐のパートナーに、久住ではなく俺を選んだ。
彼女が俺のことをどう思っていようが構わない。ただ、俺は人生を託してくれた彼女が、出来るだけ笑っていられるようにしたいだけ。

だから、テープは公表させる訳にはいかない。
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