ハロー、マイファーストレディ!

「いや、私が行きましょう。」

透との会話に口を挟んだのは、大川だった。全ての事情は透から説明させてある。

「大川、テープの公表をやめさせるだけだ。俺が行って真依子が望んでいないことを伝えれば納得するだろう。」
「それでも、どこでどんな噂が立つか分かりません。直接お会いになるのは控えられた方が……」
「秘書はこういう時のために居るのですよね、大川さん?」

大川と押し問答になりそうなところを透が止めに入る。大川がその通りと頷いたのを見て、透が再び口を開いた。

「でしたら、私が行きますよ。まずは対面して、話を聞いてみます。もう少し、慎重に久住について調べてみて、何も出てこなければ、こちらの指定した場所に呼びだします。」

その答えを聞いて大川は納得したのか、「谷崎君、十分気をつけてね」と念を押しながら首を立てに振る。そして、何かを思いついたように、透の耳元に口を寄せてコソコソと何かを呟いた。透はそれを聞いて笑顔で頷くと、まだ納得していない表情の俺に対しても、笑いかけた。

「そんな顔するなよ。うまくやるから。」
「別にそんなに警戒しなくても、話を聞くだけだろう?」
「まあまあ、大川さんも大事な息子が心配なんだよ。」
「息子じゃないだろ。」
「息子みたいなもんだろ?雇い主以上に思ってなかったら、あんなに嬉しそうに二人が上手くいってるかなんて聞いてこないぞ。」

少し離れて、俺と透の会話を聞いていた大川が照れたようにクスリと笑う。さっきの耳打ちはそれか!俺は、それ以上に照れくさくなって、わざと視線を逸らしながら言う。

「大川、いちいちそんなこと確認するな。」
「まあまあ、大川さんにとっては、真依子ちゃんもすでに娘みたいなもんだから。二人に上手くいってほしいんだよ。」

透に丸め込まれて、俺は腑に落ちないながらも、渋々透の申し出を了承した。

本当は、自らの手で彼女のことを守りたかったのに。

そんなことを思って、この時まるで子どものように拗ねていた俺は。
この時、透にゴーサインを出したことを後々悔やむことになるとは、想像すらしていなかった。
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