ハロー、マイファーストレディ!
私はこちらへと近寄ってくる男を注意深く観察した。
その時。
路上に停められた車の後部座席の窓が動くのを、視界の端でとらえた。

息が止まるかと思った。
まるでスローモーションの様に、ゆっくりと下がっていく窓を思わず凝視すれば。

嫌みなほどに微笑む、高柳征太郎の顔が現れた。

おそらく唖然としている私の顔を見て、笑いを堪えているのか。
肩が細かく揺れている。


「瞳ちゃん、お待たせ。」
「ううん、谷崎さん、時間通りよ。」

男が私たちのテーブルに到達して、瞳と軽い挨拶を交わす。

「あ、こちら、私の親友の内海真依子です。」

何の気を遣ったのか、瞳が私を紹介し始める。

「初めまして、谷崎です。」
「…はじめまして。それじゃあ、私はここで。瞳、またね。」

その場から、どうにか逃げ出さないといけないと感じた私は慌てて立ち上がった。
先ほど、逃げるなと言われたばかりなのに。
やはり、危険を察知したら逃げない訳にはいかないのだ。
それに、今日は約束してないし、誘われてもいない。
慌ててバッグを掴んだ私を見て、谷崎と名乗る男が瞳に提案した。

「良かったら、お友達も一緒にどうかな?今、ちょうど俺も友達と一緒なんだ。」
「いいわね!真依子、どうせこの後、暇でしょ?一緒に行こうよ。」
「いや、私は用事が…」

そう言って逃げようとする私の腕を瞳が掴んだ。

「真依子、よく知りもしない男に一人で付いていくなんて危険なんでしょ?アンタも付き合ってよ。」

可愛い笑顔を浮かべたまま、凄みを効かせて小声で私に囁く瞳は、本当に厄介な男を引き寄せる天才だと思う。
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