ハロー、マイファーストレディ!

「分かったら、もう寝ろ。俺は仕事に戻る。明日…そうだな、昼くらいには迎えをやるから、それまでここでゆっくりしていろ。」

征太郎は相変わらずの命令口調でそう言って、私の頭をぽんと叩いて立ち上がろうとする。
その手首を咄嗟に掴んだ。

「本気で、こんな時間から仕事に行く気?」
「ああ、急ぎの案件だけ済ませてきたが、まだやっておきたいことがある。法案審議が、今週大詰めなんだ。」
「いつ、寝てるの?」
「移動時間とか、ちょっとした空き時間に仮眠は取ってる。」
「そんなんじゃだめよ。いい?睡眠は自己管理の基本よ。そんな血色の悪い顔して、また倒れるわよ。」
「おっと、さっそく、妻らしく俺の生活に口を出す気にでもなったのか?だが、あいにくその仕事は誰にも任せてない。」
「単に、看護師としての忠告よ。」
「それは、どうも。」

体調の悪そうな人を見ると、どうも放っておけない。
これは、もう職業病だろう。
髪や服装はきちんと整えられているが、征太郎の顔には激務による疲れが浮かんでいる。
いくら表面上は取り繕っても、ほんの一瞬の僅かな隙に危険サインが表れるのだ。
このままいけば、近いうちにまた倒れそうだ。
そう思ったら、掴んだ手を力の限り引いていた。

「とにかく、ほら、ここ。横になって。」

手を引かれて、彼の体が再びベッドの上に舞い戻る。慌てて立て直そうとしたようだが、咄嗟にうまく体勢が取れずに、半ばベッドに倒れ込むような形になった。

「二、三時間でもベッドで寝ると違うから。仕事も寝てからやった方が捗るはず。騙されたと思って、やってみなさいよ。ほら、ここのベッド寝心地最高よ。さすが、高級ホテルね。」
「おいおい、大胆だな。さっき自分を襲いかけた男をベッドに引っぱり込むなんて。」
「私は、あっちのソファに寝るから…」

この部屋はどうやらスイートルームのようだが、ダブルルームのため、ベッドはこの一つしかない。

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