ハロー、マイファーストレディ!
「あなたが、村雲君の…」
応接間の扉が閉じられた途端、年輩の男性がそう言って、少し涙ぐむように目を細める。
「父をご存じで?」
「ええ、私は先代の先生の頃からこちらでお世話になっていますから。同じ党の議員秘書同士ですから、よく顔を合わせていました。お父上とは同い年で、特に親近感が湧いて、時折お互いに仕事以外の話もしましたよ。お嬢さん…あなたの話も聞いたことがあります。」
「そうですか…」
「あなたのお父上は、真面目で快活な、とてもいい秘書だった。」
「…ありがとうございます。」
私は、小さな声でお礼を言った。
父のことを褒められたのは何年振りだろう。
先代からの秘書で、私の事情を知っているということは、この人が征太郎の本来の姿を知るもう一人なのだろう。
彼の温厚そうな笑顔と心地よく響く低い声は、緊張していた私をひとまず安心させた。
「大川さん、とりあえず座りましょう。せっかく人払いしたから、早く話をしないと。」
ドア近くで立ったまま話し込む私たちを見かねて、谷崎さんが声を掛ける。
「そうですね、大変失礼しました。どうぞお掛けください。私、高柳先生の公設第一秘書を務めさせていただいております、大川広志(おおかわひろし)と申します。どうか、末永く、よろしくお願い致します。」
「内海真依子です。よろしくお願いします。」
改めて挨拶を交わす。淡々と名前を告げただけの私に対しても、彼は優しく微笑みを向けてくれた。
「私は元々この計画には反対だったのですが、こんな素敵なお嬢さんでは、歓迎しないわけには参りませんね。」
「いえ、そんな。私は愛想笑い一つ出来ないような、可愛げのない女だそうなので、あまり期待しないでください。」
「ははは、正直なことは良いことです。お会いしてみて、先生があなたを選んだ理由がわかりましたよ。しっかりとしたお嬢さんで、安心しました。これでも、先生とは長年お付き合いさせていただいているので、心配していたのです。」
べた褒めされていても、不思議とお世辞を言われているような気はしなかった。
その細められた目から向けられるのは、まるで親が子に向けるような温かな視線で、気を抜けば、つい心を開いてしまいそうになる。
征太郎が、彼の前では本来の姿で居られるというのも理解できる気がする。