ハロー、マイファーストレディ!
「で、政界のプリンスの罠にまんまとハマっちゃったわけね。」
「そのプリンスに友人を売ったのは、どこの誰かしらね?」
瞳は、ビューラーで丁寧に私のまつげをカールさせながら、からかうように笑った。
私は即座に恨み節を返すが、もちろん本気で怒っているわけではない。あくまで、仲睦まじいカップルの痴話喧嘩みたいなものだ。
「友人を売るなんてとんでもない。私はアンタの幸せのことしか考えてないわよ。」
「ソレハ、ドウモアリガトウゴザイマス。」
瞳はわざとらしく笑顔を浮かべながら、芸術的に美しいアイラインを引いていく。たちまちにいつもより大きく見える瞳。その手際はまるで魔法使いのようだ。
私も、嘘くさい笑顔を張り付け、これでもかと言うくらい棒読みのお礼を述べた。
日頃からもっと華やかにしろと言われても、「この前のメイクでは、仕事には派手すぎる」という私の主張と、「日常的にあんな派手なメイクをしていては、浮かれた勘違い女に見える」という瞳の主張が通った結果。
私は、瞳提案の「女ウケする流行顔」に変身している最中で。
まずは試しにメイクしてみて、出来上がりを谷崎さんに確認してもらい、微調整をして、最終的にオーケーが出たものを私にレクチャーしてもらうことになった。
そして、部屋に籠もるなり、瞳から当然のように昨日別れてからの出来事を尋ねられ、私は昨夜の顛末を話した。
「でも、本当にいいの?復讐のために、結婚するなんて。」
それまでの、どこか茶化すような口振りから急に真剣な口調へと変わった瞳の問い掛けに、私は静かに瞼を下ろして答える。その瞼にアイシャドウが乗せられていく。
「いいのよ。どうせ、まともに恋愛して結婚するつもりなんて無かったんだから。」
そのひとことは、するりと自然に私の口から出て行った。
普通なら、結婚は人生の一大事なのかもしれない。
でも、私にとっては特に夢があるわけでも、大したこだわりがある訳でもない。
感覚的には、大昔のお見合い結婚みたいなものだ。家と家の話し合いで、一度も会ったことのない人と結婚する時代だってあったのだ。
それと比べれば、むしろ悪くない。
家でなく個人がお互いにメリットを享受しあえる関係だ。
私が彼の目的にちゃんと貢献できるかは怪しいものだけれど。