恋愛優遇は穏便に
部屋について、遅めの夕飯を食べる。

世の中の何気ないことを話して冗談を言い合う。

楽しいんだけれど、何か、物足りない。

ソファに座り、借りてきた映画のDVDをみていたときだった。


「どうしましたか?」


「あ、あの」


政宗さんが不思議そうに私を眺めている。


「さっきから、何かが足りないような」


「そうですか? スパイスが足りなかったんでしょうか。もうちょっと料理を勉強しなくては」


「そうじゃなくて」


「では、何か?」


隣で政宗さんがすました顔をして映画をみていた。

リラックスして黒ぶちのメガネをかけた横顔も素敵だった。

ドキドキと胸を打つ。

しかたなく、私が近づき、頰にキスしようとしたときだった。


「ダメですよ」


冷たく言い放ち、顔を横に反らした。


「えっ」


「キスはしませんよ」


「何で」


強めのため息をつき、黒ぶちのメガネの奥から鋭い視線が送られた。


「たまにはいいじゃないですか。キスしないで過ごすのも」


「そんな」


せっかくいいタイミングだったのに、としょんぼりしていると、


「甘えた顔しても、キスしませんよ」


政宗さんは鋭い視線のまま、低い口調で言い切った。
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