恋愛優遇は穏便に
「せっかくの週末なのに」


私が横でつぶやいていても映画をじっとみていた。

映画を観た後は、政宗さんがお風呂に入り、その後私もお風呂に入る。

どうしてキスしてくれないんだろう。

思い当たる節はあるんだけれど、それをいったら政宗さんがどうなるかわからない。

でもこの現状だと言ったほうがいいに決まっている。

タオルで丁寧に体を拭き、持ってきた新しい下着を身につける。

洗面室の棚から置かせてもらった自分のパジャマをとり、身につけた。

政宗さんがベッドに上体を起こしている隣に入っていった。

いつもなら、隣にきた時点でキスからはじまっていくのに、政宗さんは本を読んでいる。


「あ、あの」


トントンと、左腕を軽く指でつつく。

政宗さんは読んでいた文庫本をベッドサイドに置くと、私の手をとって静かに手をおろした。


「たまにはゆっくりと夜を過ごしませんか」


「え……」


「こういうことも必要ですよ、むつみさん」


「で、でも」


「そんなにしたいんですか?」


政宗さんがニヤリといやらしい笑みを向けた。

どうやって返していいかわからなかった。


「どうして何もしないんでしょうかね、僕は。むつみさん、心当たりはあると思いますか」


「えっ」


やっぱり私が隠していることで怒っているんだ。


「金曜日の用事のこと、ですよね」


「さあ、どうでしょうね」


黒ぶちのメガネの奥の目は笑っていなかった。
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