恋愛優遇は穏便に
しばらく見つめ合ったまま、黙っていた。

ベッドの中で政宗さんの厳しい眼差しには勝てなかった。


「政宗さん……」


「教えてくれるんですか? 金曜日の用事とやらを」


私は、ごくん、と唾を飲み、口を開いた。


「実は、金曜日だけ、別の会社へ派遣の仕事に出ていて」


「それはどういった仕事なんですか?」


政宗さんは腕を組んできつい口調でいった。


「事務的な仕事を」


「どうして早くいわないんですか」


「政宗さんが心配すると思って」


「確かに心配しますよ。僕は」


政宗さんは、はあ、と強いため息をもらし、黒ぶちメガネのフレームを指で持ち上げ、位置を直していた。


「月曜から金曜までウチの会社で頑張ってくれているのに、別の会社も掛け持ちになると体力的に心配です」


「ですけど、契約期間中なので、途中でやめられないんです」


「早く僕に相談してくれたらよかったのに」


「……ごめんなさい」


「頼りないですかね。僕は」


「そんなことは……」


結婚資金を貯めたかったっていう理由が一番だったけれど、それよりも政義さんが上司だったっていうことは言えなかった。


あんなに目力が強かった政宗さんが今度は肩を落としている。


「よくわかりましたよ、むつみさん」


「政宗さん、私……」


「今日のところは眠りましょう。おやすみなさい」


そういって、政宗さんはメガネをとると、ふとんをかぶって眠ってしまった。
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