恋愛優遇は穏便に
朝ごはんを食べてテレビを見ながら最近の流行りの話をする。

一緒にいて楽しいはずなのに、何も起こらない。

ごはんをすませても、せっかく二人っきりなのに、キスも抱擁もない。


「元気がありませんね」


外へ散歩がてら駅周辺をブラブラしていた時だった。

晴れていて、気温もそれほど暑くはなく、夏の暑さはなくなっていた。

旗を持ったバスガイドさんが私たちの歩く横を通り過ぎる。

バスガイドさんに案内されているカメラを持ったおじさんやおばさんたちが会話を楽しみながらその先にある観光施設へ向かっているところだった。


「元気がなさそうにみえますか?」


「せっかくの秋晴れなのに、むつみさんの顔が曇っているなんて」


「そうみえますよね」


じゃあキスしてくださいなんて言えないのがつらい。

目の前に近づく観覧車がゆっくりと時計回りにまわっている。

私は意図的に観覧車を指差した。


「乗ります? 観覧車」


「僕が嫌だって知っているくせに」


「ご、ごめんなさい。つい」


「別にいいんですけど」


二人の間を冷たい風が吹き抜けていった。


「まだ怒っているんですよね」


「怒ってませんけど」


そういって政宗さんはすました態度をみせた。

一緒にいてくれるだけでもありがたいのに、どうしてだかわがままになってしまう自分が嫌になる。

政宗さんより年齢が上なのに、考え方が幼稚なんだろう。

政義さんのこと、話せばいいのに、なぜだか口に出せない。

言い出せないことに胸がくるしくなる。
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