恋愛優遇は穏便に
「……もう少し大人になりたいのに。年齢ばかりが先にいってしまう」


「どうしたんですか。むつみさん」


「政宗さんにきちんと言えない自分がつらくて」


公園に着いて開いていた白いベンチに互いに腰掛ける。

持っていたカバンをぎゅっと握った。

政宗さんはそんな私の姿をみて、唇をかみしめ、すぐに口を開いた。


「悲しい顔、しないでください」


「政宗さんに言わなきゃいけないことがあって」


「むつみさん、いいですって。無理に言わなくても」


「私は……」


言いかけたとき、政宗さんはカバンをぎゅっと握っていた手の上から軽く右手を置いた。

機会を狙って手を握ろうとしたけれど、はぐらかされる一方だったから、久々に繋がれた手は暖かかった。


「言えないことを無理して言わなくてもいいですよ。言いたくなったら言えばいい。僕は素直にむつみさんの言葉を受けますから」


「政宗さん」


「何が起こっても僕はむつみさんの彼氏なんですよ。敵ではなく、味方です」


政宗さんの心強い言葉で泣きそうになるところをぐっとこらえた。


「ごめんなさい」


「いいんですよ。これでいつかは話す口実を取り付けたわけですから」


政宗さんの穏やかな声に諭された。

気持ちが落ち着いてきたところで、政宗さんは苦笑いを浮かべている。


「しかし、まいったなあ」


「どうかしましたか?」


「僕に向けるむつみさんのせつない顔をされると、くるしくなってしまう。それに」


私たちの前をカップルが手をつなぎ、互いの目を見つめ笑いながら通り過ぎていく。


「欲しがる顔をするから、僕はいたたまれなくなる」


政宗さんは黒ぶちメガネ越しにまっすぐに私を見つめてくれた。

政宗さんの真剣なまなざしに胸が高鳴る。


「さて、こうしてはいられません。買い物を済ませて帰りましょう」


「はい」


ベンチから立ち上がると、ぎゅっと政宗さんは私の手を強く握ってくれた。

私も同じく強く握り返したら、ニコリといつもの笑顔をくれた。
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