恋愛優遇は穏便に
支度を済ませ、帰ろうと席を立った時だった。

仕事をしながらも、政義さんは私に釘付けのようでちらりとパソコン越しに視線を感じる。


「政義さん」


「なあに?」


政義さんは仕事をやめ、甘く低い声をあげ、同じく席を立つ。

軽く深呼吸をして、政義さんに強めに言った。


「政義さんとは上司として接していきたいんです」


「ほお。それで?」


ゆっくりと政義さんは歩み寄ってきた。


「キスの件、なかったことにしてくれませんか?」


こうやって向かい合わせに立ち、政義さんを見上げるけれど、政義さんの背の高さに圧倒する。

私を見下ろし、腕を組んだ。


「なかったことにしたい?」


「ええ」


「そっかあ。そんなことかあ。ふうん。わかった」


政義さんは軽く首を縦に何回も振っている。


「ただし、条件があるなあ。それをのんでくれたら考えてもいいかな」


「条件って」


弱々しく口から出てきたつぶやきに対し、政義さんが歯をむき出して笑った。


「ボクとおつきあいしてくれない?」


「え?」


付き合うって、政義さんは正気なんだろうか。


「ただし、明日の土曜から休日3日間だけ」


「それは困ります」


「えー。たった3日間だけだよ。それでなかったことにするって、むつみチャンにとってはいい提案じゃないかな?」


「提案って。私には政宗さんがいるって何回言えば気が済むんですか」


私が呆れかけているのに、政義さんは組んだ腕を自分の両腰に当てて、さらに得意気に口角をあげてみせた。
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