恋愛優遇は穏便に
「政義さん」


髪の毛を触る政義さんの手を振りほどくように、体をかわした。


「あら、いけない。きれいな髪の毛だったからついつい触っちゃった」


政義さんは笑い飛ばしている。

カバンを持ち、いそいそと出入り口まで向かうと、後ろをゆったりとした歩き方で追ってきた。


「それじゃ、また明日。ここで」


「お先に失礼します。明日もよろしくお願いします」


何事もなかったかのように政義さんは大きな手をかざし、手を振ってくれた。

会社に出ると、全身のチカラが抜けたようで、ふらふらと足元がおぼつかない状態でエレベーターまで伸びる廊下を歩く。

誰も乗っていないエレベーターに乗り、大きくため息をついた。

3日間だけならいいのかな、と思うけれど、政義さんのことだから、どうなるかわからない。

あのキスのことも、私のことも諦めてくれるならいいのかもしれない。

明日からの3日間は気を引き締めていかないといけない。

ちゃんと政義さんをかわすことができるか、それだけが心配だった。

部屋について政宗さんのメールが届いていることに気づいた。


「早くむつみさんに会いたいです」


短いメールだったけれど、政宗さんの気持ちがつまっているな、と感じた。


きっと今、準備をしているんだろうと思い、


「私も政宗さんに会いたいです」


と返したら、すぐに政宗さんから電話がきた。

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