恋愛優遇は穏便に
「さて、仕事も終わったし。ごはん食べにいこうか」


「……え」


「昨日言ったでしょ。付き合ってもらうって」


「え、ええ」


「そんなこと、言いましたっけ、なんてとぼけられても困るし。ちゃんとお店予約しておいたから」


「わかりました……」

政義さんは鼻歌まじりに机の周りの整頓をし、パソコンの電源を落としていた。

私も急いで片付け、カバンを持つ。


「もういっても大丈夫かな」


「はい」


政義さんが私を出入り口に促すと、入り口の壁に設置された部屋の明かりを消した。

ドアノブに手がかかったとき、政義さんが私の耳元でささやいた。


「もしかして、期待してた?」


「何をですかっ」


「何だ、キスするかな、とか思ってもくれてなかったのかあ」


「そんなこと考えるわけありません」


「そう。残念」

そういうと、政義さんが銀色のドア、ガラス張りのドアを開けてくれた。

廊下の明かりが眩しくみえる。


「付き合ってもらうんだから、まずは手始めに」


というと、政義さんがカバンを持たない右手をとり、手を握った。


「政義さんっ」


政義さんは手をとり、わたしの指先を直視した。


「政宗のリング、してるんだね」


「いいじゃないですか」


「まあ、ボクは別にいいけど」


そういって、また手を握り、エレベーターに乗り、一階まで降りた。

一階のロビーから外にはタクシー乗り場があり、一台の車が停車していたので、政義さんと一緒に乗り込むことになった。
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