恋愛優遇は穏便に
港のみえる場所にそびえ立つ、一つのホテルにタクシーが入っていった。

以前、大和のことでいろいろあった老舗ホテルの隣にある比較的新しいデザイナーズホテルだ。

政義さんが手際よく会計をすませてくれて、私は先に降りた政義さんのあとを追うように、しぶしぶタクシーから降りた。

降りてからも左手を手にとり、ホテルのロビーへと歩んでいく。

ロビーのホテル受付にはまだチェックインを済ませていない客が列をなしていた。


「さて、むつみチャン行こうか」


「えっ」


政義さんはクスクスと軽く笑ってみせた。


「どうしたの? 何か期待でもしてるのかな?」


「そ、そんなこと」


「本当は客室にでも行こうかと思ったけど、まずは腹ごしらえしなきゃね」


そういって、政義さんは軽くウインクした。

受付の隣にあるエレベーターに乗り込み、ホテルの上階にあるレストランへと向かった。

上質な赤い絨毯が廊下中に敷き詰められている。天井や壁伝いに高級そうなランプが飾られていた。

入り口では黒いスーツに身を包んだ男性が立っている。

政義さんは軽く手をあげると、黒いスーツの男性は深々とお辞儀をした。


「五十嵐様、お待ちしておりました」


「今日の料理、楽しみにしているよ」


「かしこまりました」


こんなところに来ていいものか、と思ったけれど、黒いスーツの男性に促されながら、奥の個室に通された。
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