恋愛優遇は穏便に
会計をすませ、エレベーターに乗る。

やっぱり政義さんは私の右手を握っている。

離そうとしても強く手を握りしめているからほどけない。


「どうしたの? 嫌なの?」


「え、ええ」


「だよね。政宗にもらった指輪してるから、わざと握ってるんだよ」


そういって政義さんはすましていた。


「さて、今日のところは帰りますか。明日もあるし」


「は、はい」


一階玄関前に黒塗りのタクシーが停車していた。

タクシーに入るよう促され、先に乗車し、そのあと政義さんが乗車しドアが閉められた。


「行き先は?」


とタクシーの運転手さんから言われる。


「むつみチャンの家、送っていくから」


そういって、私の住むマンションの名前を告げると、タクシーは走り出した。

夜のこの大通りは宿泊施設や観光施設、商業施設があるのでまだ人通りは多い。

近くで観覧車のイルミネーションが輝いている。

黙って窓越しの風景を楽しんでいたら、政義さんが私をずっと見ていることに気づく。


「あ、あの」

「いいよ。きれいだね」


それから政義さんは何も言わなくなった。

私のマンションの前について、ドアが開く。

カバンから財布を取り出そうとしたとき、


「ボクが払う。そのまま、ボクは自分のうちにいくから」


と運転手さんに少し待ってと政義さんが告げた。

政義さんが外に出て、そのあと私もタクシーから降りた。


「今日は楽しかったよ。また明日ね」


そういうと、頰に軽くキスをした。


「政義さんっ」


「これぐらいはいいでしょ。それじゃ、おやすみ」


そういって、政義さんはタクシーに乗り込み、私の家の前をあとにした。
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