恋愛優遇は穏便に
「だからって」


声が震えた。

それなのに政義さんは私の言葉に反応しない。


「これからむつみチャンはもっとボクを好きになるから」


「私は政義さんのこと、好きになんかなりません」


「あんなに楽しんでおいてよくそんなこと言えるね」


「……そんな」


「まあいい。こんな話をしていても堂々巡りになるだけだ。送っていくよ」


「いいです。自分で帰りますから」


「それならタクシー代、払うから」


そういって隣の部屋へ行こうとしていた。


「もういいですから!」


朝からこんなに大きな声が出るのかというぐらいの声が出る。

政義さんは一瞬固まったけれど、すぐにいつもの穏やかな顔に戻った。


「わかったよ。気をつけて帰ってね。今日は仕事、休んでいいから」


「……失礼します」


ダイニングテーブルに置かれたカバンを手にして、そのまま部屋を飛び出した。

外に出たから涙を見せたくなかったのに、どうしても涙がとまらなかった。

誰にも会いたくない。

幸いにもマンションの廊下、エレベーターも一人だった。

だから余計涙があふれたのかもしれない。

ロビーについて涙を手でぬぐいながらマンションを後にした。
< 162 / 258 >

この作品をシェア

pagetop