恋愛優遇は穏便に
昨日、政義さんといろいろあったはずなのに、政義さんは黙って自分の仕事をこなしている。

私も昨日やり残した仕事をやり始めた。

印刷物を印刷する音、キーボードを叩く音、紙がすれる音が響くぐらいで仕事に関する話題を話すぐらいで特に話はしなかった。

時間になったので、勤務表を政義さんに提出した。


「政義さん、ひとつ聞きたいことがあるんですけど」


「なあに?」


政義さんはとぼけるような声でサインをして勤務表を返してくれた。

きっと政義さんに言ったらまた何をするかわからないから、どういう言い方をしていいか、まごまごしてしまった。


「遠慮しないで」


困っている私を見据えてか、政義さんはやんわりと対応してくれた。


「……指輪、知りませんか?」


「指輪?」

そういうと、政義さんは小首を傾げる。


「政宗さんにもらった指輪ですけど」


「もしかして、どこかへ落とした?」


「政義さんの部屋に落ちてしまったのかと思って」


「そう。わかった。探してみるよ」


きっと探してはくれないんだろうな、と諦めにも似た感情がわいた。

しかたなく話題をかえた。


「今日で三日目ですよね」


「そうだね。三日目ってことはおつきあい最終日ってことだよね」


「え、ええ。で、今日はどうするんですか? もしかしてまた昨日の続きをするとか」


「むつみチャンがしたければ望みはかなえるけど」


そういって政義さんは口角をあげる。

銀ぶちのメガネの奥の目が挑戦的だった。
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