恋愛優遇は穏便に
政宗さんのメールに嬉しい半分、もう半分はどうしようという気持ちでいっぱいだった。

エレベーターに乗り、一階についてロビーのベンチに腰掛け、内容をチェックした。


『無事に帰ってこれました。むつみさん、今夜会えますか?』


政宗さんのメールの文章をみただけで、胸が痛む。

ようやく政宗さんに会えるのに、あの大きな体に触れられるのに。

それなのに、政義さんとはああいう形で一線を越えてしまったし、何よりも指輪をなくしてしまった。

会いたい気持ちは高まっているのに、会えない後ろめたさのほうが勝ってしまった。


『ごめんなさい。今日は疲れていて。また来週の金曜日にお願いします』


と返信した。

ベンチから立ち上がり、自宅へ戻ろうとしたとき、またスマホが鳴る。

政宗さんからの電話だった。


「もしもし、むつみさん?」


久々に聞く政宗さんのやさしい声が耳から全身に伝わり、包み込まれるようなあったかさが感じられた。


「政宗さん」


「声、聞きたくなりまして。僕はむつみさんに会いたいんですけど」


「ごめんなさい。今日はちょっと」


「ずっと3日間、むつみさんのことばかり考えていたんですよ」


「私もです」


「少しだけでもいいので、会えませんか?」


「でも、明日、仕事じゃないですか」


「そうですけど、僕はむつみさんに会いたいんです」


「……ごめんなさい。また来週の金曜日にしませんか?」


「どうしても会いたかったんですが。わかりました。金曜日までとっておきます」


「ごめんなさい。わざわざ電話していただいたのに」


「いえ、こちらこそ、むつみさんのこと、考えなくて僕ばかりが先走ってしまって」


「声、聞けてよかったです」


「僕も。おやすみなさい」


「おやすみなさい」


電話を切った。

気がつけば、涙が頬を伝っていた。
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