恋愛優遇は穏便に
「終わりましたか」


事務室に戻り、席に着くと高清水さんが眉をひそめてこちらを見ていた。


「え、ええ」


「また暗い顔して。森園さん、もしかしてこの会社のことで何か言われたりしたんですか」


「いえ、そうではないんですけど」


「だったら、どうしたんですか」


仕事のときに怒るような声ではなくて、心配して強めな声だった。


「個人的な問題があって」


「……そうですか」


高清水さんはそれ以上何もいってこなかった。

政宗さんにも話をしてみたかったけれど、あの様子じゃあ私の話に聞く耳を持たないだろう。

政宗さんだったらどういってくれるんだろう。

引き止めてほしい。

そんな甘い考えで頭がいっぱいだった。

でも、今の政宗さんだったら、何もアクションを起こしてはくれないだろうな。

まだあと1ヶ月あるんだし、もう少しだけ考えてみたい。

事態がどう動くのか、わからないけれど。

まずは目の前の仕事をきっちりとやり遂げないと。

高清水さんや北野さんの怒られないように、ミスしないようにしなくては。

そう心の中で言い聞かせながら、午前中にやり残していた受注処理を済ませていった。
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