恋愛優遇は穏便に
金曜日になり、朝から、北野さんも高清水さんもどこの店にしようか、と楽しみながら悩んでいる。

楽しいはずなのに、どこか別の場所にいるような、そんな心持ちになる。


「森園さんもいいところがあったら、教えてくださいね。北野さんは洋風居酒屋がいいっていうし、あたしはイタリアンがいいかな、と思ってるんですけどね」

考えておきますね、と軽く返事をした。

あんなにあまり関わりたくないといっていた高清水さんが乗り気になっている。

北野さんも一緒にのってくれている。

会社の人間関係の環境はよくなりつつあるのに。

私と政宗さんとの仲がよくないから、気を使ってもらっている。

すべては私が悪いのに。

今日も飲み物だけですか、と高清水さんに心配されたので、夜にたくさん食べるので安心してくださいよ、と口先だけの会話のやりとりをした。

定時に仕事が終わり、足取りが重いまま、政義さんの会社へと向かう。


「こんばんは」


「こんばんは。今日もよろしく」


言葉少なめな政義さんが不気味に思えてきた。


「あの、先に言っておきます。郡司さんから聞いていると思いますが、派遣契約の件と社員の件の答えは1ヶ月後に話しますから」


「……そう」


そういって、私と目を合わそうとせず、仕事を進めていた。

政義さんのことを考えないようにしながら、各署の指示メールを読んで仕事をはじめた。

ダンボールに仕分けした資料を並べたり、会議用の資料の印刷やホチキス止めとしたりして2時間はあっという間におしまいになった。

政義さんに勤務表を渡し、すぐにサインをして返してくれた。

机の上の資料を片付けていたときだった。


「この時期にやめてもらうのも困るんだけど」


政義さんがぼそっとつぶやいた。
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