恋愛優遇は穏便に
「これ、見覚えあるよね」


冷たく言ったその先にあったのは、ICレコーダーだ。

ぞくっと、身震いした。


「聞いてみる? 今」


「や、やめてください!」


机の上のICレコーダーを取ろうとしたら、すぐに政義さんの手によってICレコーダーが奪いさられた。

そして、すぐさま私の顔へICレコーダーを見せびらかすように近づけた。


「消してください。お願いですから」


「ふうん。お願いされちゃったけど。さて、これをどう処理しようかな、って思ってね」


どう処理って。

もしかしてあのときの音源を政宗さんに聞かせるってこと?

私が困っていることをよそに、政義さんは目を細めて笑っている。


「むつみチャンの動向によってはこのICレコーダーの音源が大切な役割になってくるんじゃないかな」


「脅しですか?」


「脅しじゃないよ。むつみチャンの返事次第って言ってるじゃないか。もちろんいい返事だけど」


「……そんな」


「1ヶ月あるんですよ。その分、猶予があるってことでいいんじゃない?」


そういって、政義さんはクスクスと笑っている。

机の片付けが終わると、帰宅の準備を済ませて政義さんの脇を通り、出入り口へと向かう。


「困らせないでください。仕事のこととプライベートなことは関係ないですよね」


「困らせようとは思ってないよ。ボクに従えさえすれば丸くおさまるっていうことを教えたかっただけ。じゃあ、また来週ね。お疲れ様」


政義さんは来たときよりも嬉しそうに明るい声をしていた。
< 197 / 258 >

この作品をシェア

pagetop