恋愛優遇は穏便に
政義さんが手元にあのICレコーダーがある限り、指示に従わないといけないだなんて。

すべては私が悪いってわかっているのに。

あのICレコーダーの音源さえなければ。

さらに気持ちが重くなりながら、エレベーターに乗る。

こんな状況で政宗さんに相談したところで、話し合いにもならない。

ましてや、あんな音源で脅されていると知ったら。

考えるだけでも、先のことがよくわかる。

だから政義さんは自分の都合のいいように私を支配していこうとしているのか。

その波には乗りたくない。

一体、どうしたらいいんだろう。

1階に降りたときだった。

エレベーターホールからロビーに向かったところで、見覚えのあるスーツを着た男性がいた。

ちょうど死角になる場所に身を隠しながら、ロビーにいる二人を見た。

その傍らには黒髪を腰までのばしたスーツの女性が何やら話をしていた。

女性から何やら光沢のある白色の手提げの紙袋を渡されている。

渡している女性はうれしそうに笑うと、その男性は頷く。

黒のカバンと白色の手提げ袋を持って外へと歩いていった。


「……政宗さん」


黒髪の女性が私とすれ違う。

品のある高そうな香水が体から漂っている。

私より肌ツヤがよさそうで、きれいにメイクされていて、知的な美人だった。

胸が引き裂かれるような気持ちに陥る。

政宗さんが若い女性と密会しているだなんて。

駆け出して政宗さんに聞き出したかったけれど、体が動かなくてただ立ち尽くすだけだった。
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