恋愛優遇は穏便に
ふわふわとやわらかな感触が体に伝わる。

どこかで嗅いだ、やさしい香りがする。

ゆっくり目を開ける。

見上げれば、天井には肩越しに見ていた丸いシーリングライトがある。

天井から視線を下ろすと、テーブルや棚など、きちんと整頓された部屋が広がっていた。

私は制服のままベッドに寝かされ、クリーム色のカバーがされた羽毛ぶとんにくるまっていた。


「あれ、ここは」


「気づきましたか」


一番、欲していた優しい声がする。

たった一言だけなのに、きゅっと胸が高鳴った。


「政宗さん」


政宗さんは黒いふちのめがねをかけて、私を見下ろしていた。

久々にみる政宗さんの美しい顔を直視できず、私は目を伏せた。


「まだ横になっていてください」


「……あの、私」


「知ってますよ。事務室で気を失って、高清水さんから連絡もらったんで。急いでウチに連れて帰りました」


忙しい時期なのに、仕事を打ち切ってまで運んでくれるなんて。

また迷惑をかけてしまった。


「でも、政宗さん、仕事が」


「家でも仕事はできますから」


軽く笑ってくれた。

きっと愛想笑いなんだろう。

ちょっとだけ顔が引きつっていた。

微妙な関係になってしまった以上、何もなかった頃のように明るく弾けるような顔はしてくれないんだろうな。


「……私」


「頰がこけてきてますね。ごはん食べてなかったんでしょ。ゆっくり休んでください」


「……ご、ごめんなさい。私……」


「まったく、世話が焼けますね。まずは体を休めて」


そういうと、政宗さんが掛け布団をかけ直してくれた。
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