恋愛優遇は穏便に
「わたしね、駒形さんと別れたんだ」


数秒、時がとまったように感じられた。

きっと高清水さんも同じ考えだろう。

高清水さんも北野さんの顔をみて固まっていた。

すると、店員さんが飲み物と先付けをテーブルにおいていった。


「話す前にとりあえず乾杯しよっか」


と各々の飲み物を持つ。


「新しい門出と今後の濱横営業所に乾杯」


北野さんのカラ元気な声とともに、グラスをならし、私も北野さんも高清水さんもグラスに口をつけた。

空きっ腹にきくけれど、北野さんの話が強烈すぎて自分の体はどうでもよくなった。

あー、やっぱりこの一口が最高だよね、と北野さんは元気だ。

高清水さんは先付けのごぼう煮を食べてから、話を振った。


「え、駒形さんとですか」


「うん。いつかは別れる日がくるってわかって付き合ったから」


「いつ別れたんですか?」


私はおそるおそる聞き出した。


「そうだねえ。研修会が始まる前かな」


「え、そうなんですか!」


高清水さんも私も同じように声に出した。


「研修会は気まずかったけど、お互い大人だからね。普通に接するように心がけたの」


「確かに気づきませんでした」


高清水さんが納得しながらカクテルをちびちびと飲み、北野さんに質問した。


「で、原因はなんだったんですか?」


北野さんは伏し目がちになりながら、肩までのびた髪を耳にかけた。


「嘘に疲れてしまって」


嘘、か。

北野さんの恋愛は特殊だ。

ずっと嘘をつき続けていかなければならない。

いつか破綻するとわかっていたけれど、好きという気持ちで嘘を突き通していたのだろう。
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