恋愛優遇は穏便に
「少しでも上に行かなくてはむつみさんが安心して働けないんじゃないかと思って研修や昇級試験に臨んだわけです」


今の政宗さんは所長だけれど、人事に関しては営業所内のみで、内部ではあまり口を出せる状況じゃない。

だから少しでも今の役職よりも上がって私のことを推し進めようとしていたのか。


「研修旅行の時にさりげなく、むつみさんについての話をしました。駒形さんも本社の方々もむつみさんの頑張りはよくわかっていました。まず最初は契約社員からですが」


「私のために自分の仕事を抱えながら、研修に参加していたんですね」


「ええ。でも、むつみさんに会えないことが耐えられなくって研修旅行、ちょっと抜けてしまいましたけど」


そういって、政宗さんはクスクスと笑った。

あの日のあの状況を思い出したら、体の芯が熱くなった。


「……怒られませんでしたか」


「大丈夫ですよ。駒形さんや栗林さんにお願いしてありましたから」


にじり寄る政宗さんを私はゆっくりと体を後ろへと進ませる。

私は壁に背をもたれた。


「さて、まだこの部屋からは出しませんよ。まだ僕の要件が残ってる」


といって、私に体を寄せ、唇を重ねた。

壁のひんやりとした感覚が背中から伝わったけれど、政宗さんから受ける熱いくちづけで気にならなくなった。


「むつみさんは物分かりのいい人ですね」


するりと大きな手で私の体の線を上から下へとなぞりはじめる。


「で、しばらくむつみさんと会えなくなるのを心配して、兄に聞いてみたんです。新しい部に事務は必要かと」


「え、もしかしてお兄さんの仕事も政宗さんが行ったことですか」


「所長としてできる限りのことをしようとしてでの行動ですが、結果的に兄にしてやられましたけど」


政宗さんが、苦手とされる兄に相談するなんて。
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