恋愛優遇は穏便に
「そんなしょんぼりした顔しないで。本当だったら五十嵐くんが真っ先にココにかけつけたいって言ってたのよ」


「えっ、所長が」


「まったく仕事場なのに。ごちそうさまっ」


そういうと北野さんはクスクスと笑っている。


「うらやましいなあ。わたしも五十嵐くんとくっつけばよかったかな」


ドキっとしてしまい、あやうく持っていたお箸を床におとしそうになった。


「やぁねえ。冗談よ。それぐらい二人がお似合いってこと」

北野さんはまた軽く笑い、サンドイッチをぱくついていた。


「わたしの場合は自業自得だし。でもそろそろ潮時なのかもしれないかなって思っててさ」


「えっ」


北野さんは本社営業の駒形部長とつきあっている。

駒形部長は既婚者で北野さんは未婚。

つまりは公にはできない恋愛で、ここの営業所での関係で知ることになった。

北野さんと同期の本社総務の高砂さんもかすかに噂を知ってるんだろうけれど、噂話が大好きな高砂さんの耳に届かないように皆配慮している。


「踏ん切りがつかないんだよね、お互いに」


「……そうなんですか」


どういう言葉を返していいか、わからない。


「最終的な答えは見えてるはずなのにね」


ふうと北野さんは強く息を吐いていた。


「なんだか重苦しい昼休みになっちゃったわね。ごめんね」


「いいえ、いいんです」


「さて、そろそろ行くわ。今の話は内緒ね」


残りのサンドイッチを食べてコーヒーを飲むと、そそくさと北野さんは行ってしまった。

私とは違うどこか大人の雰囲気をまとわせながら。
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