恋愛優遇は穏便に
口元に笑みを残したまま、その人は向かい合わせに着席した。

まっすぐ姿勢正しく座るだけでも品があり、魅力的な姿からたいていの女性はそれだけでもドキンと胸をうつのであろう男の風格を漂わせていた。


「五十嵐室長、こちらが森園むつみさんです」


「どうも、はじめまして」


「は、はじめまして……」


メガネの奥底で獲物を狙うかのようにじっと私の顔を見つめて離さない。

でもここは顔合わせの場所だし、郡司さんの手前、緊張感を持ってのぞむけれど、それでもふと気を許すとキスをしたときのお兄さんのしぐさを思い返してしまう。

ぐっとテーブルの下、ひざの上においた手が震え、思わずスカートの布をぐっとつかんだ。


「早速ですが、仕事内容の確認ですが……」


隣で郡司さんが説明をしているのに、なかなか頭に入ってこない。

向かい合わせに座っているあの人の視線がきつい。


「営業事務としてお願いするということでよろしいですよね」


郡司さんは説明を言いきると、その人は納得して頷いていた。


「それでいいですよ」


渋く響く声が胸をつく。

あたりまえだけれど、初めて会った時と変わりなく、穏やかに心の中に声がすっととけていく話し方をする人だと思った。
< 41 / 258 >

この作品をシェア

pagetop