恋愛優遇は穏便に
「よろしくお願いします。五十嵐室長」


私の言葉をきいてしっくりこなかったのか、室長は不満そうに頬杖をついていた。


「五十嵐室長だなんて、しょっぱなから肩苦しい言い方ナシにしよう」


「では何とお呼びすればよろしいでしょうか?」


室長は退屈そうに片方の手で銀色のメガネのセルフレームを指でもてあそびながら、私を見ていた。


「この中では政義でいいよ」


「……わかりました。政義さん」


「物わかりいいね。じゃあ、ボクも遠慮なく呼ばせてもらうね。むつみチャン」


政義さんは自分で納得したのか頷いていた。

入口でずっと立ちつくしていたので、政義さんの席の向かいにもう一つ事務机を指差した。


「ああ、ごめん。席はそこね。ボクとむつみチャンしかいない部署だからいいかな、って思ってさ」


「はい」


案内された席に座る。

机の上には中央に新しいノートパソコンが一台置かれていた。


「仕事に必要なものは引き出しの中にあるけど、他に必要なら用意するから言ってね」


「わかりました」


ノートパソコンの電源を入れ、カバンからメモ帳とペンを取りだした。
< 69 / 258 >

この作品をシェア

pagetop