恋愛優遇は穏便に
立ちあがり、本棚へ本を並べようとしたけれど、手の届く範囲内に並べてしまって空いているところは私の伸ばした手よりも上にあった。

ぐんぐんと背伸びをして本を並べようとしたとき、大きな手が持っていた本をとって本棚にしまった。


「きれいな手をしてるね」


気がつけば右手を大きな手でつかまれていた。


「あ、あの……」


「照れてるんだ。かわいいね」


政義さんの顔が私の顔に近づいている。


「離してくださいっ。まだ並べないと」


つかまれた手を振りほどこうとする。

さらに政義さんが強く握り返す。


「このままこの間の続き、してもいいんだよ」


甘くしびれる声が耳元でささやかれた。


「……ですから、仕事が」


「まあ、いきなりキスは無理か」


そういって、悔しそうな顔をして政義さんは手を離してくれた。


「……ですから、仕事を」


「わかったよ。段ボールの中身を片づけてくれたら、書類を整理してもらうから」


政義さんはしぶしぶ私から離れ、自分の席に戻っていった。
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