恋愛優遇は穏便に
「また今度教えてあげるよ」


また政義さんから甘い視線が注がれる。

気づかないよう視線を合わせる。


「それでは、お先に失礼します」


勤務表を引き出しにしまい、机の周りを整頓し、カバンを持って帰ろうとしたところで政義さんが声をかけた。


「送っていってあげようか?」


「大丈夫ですから」


「そっか。政宗が待ってるんでしょ」


「え、ええ」


「嬉しそうな顔してる。うらやましいね」


政義さんがつまらさそうに頬杖をつき、口をとがらせた。


「それじゃ、また来週ね。むつみチャン」


「お先に失礼します」


ようやく会社の扉を締め、廊下を歩くことができたとき、気が緩む。

毎週金曜日、こんな感じで仕事をしなくてはならないのか。

契約してしまったのは自分の責任だけれど。

一瞬、ドキドキしてしまったことを後悔しながら、家路を急いだ。
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