初恋も二度目なら
『美味しいコーヒーや紅茶の淹れ方なんて知らなくても、普段の暮らしに支障はありません。現にみなさんは今まで知らなかったのに、ちゃんと生活できていたでしょう?でも、ちょっとしたことに、もうちょっとだけ心を傾ける。意識をしてみる。今までとは違う角度から見てみる。それだけで、毎日の暮らしが、グンと豊かになりますよ』
『美味しい飲み物を作るために必要なのは、技術よりも心。気持ちです。自分自身や相手がホッと一息ついている姿を思い浮かべながら、愛情を込めて作ること。私は、そちらの方が大事だと思っています』

「あらやだ。みなさんに“美味しいコーヒーと紅茶の淹れ方”を教えているのに、私ったら」と言ってクスッと笑っていた吉永先生は、とても品のある女性だったなぁ。

それに、話言葉だけじゃなく、姿勢や仕草もとても美しくて。
背筋はピンと伸びていて、お肌もキレイ。
上質な服を着こなして、ほっそり・スッと伸びた指先には、いつも真っ赤なネイルが塗られてて。
先生は、65歳という実年齢より、最低20歳は若く見えた。
吉永先生からは、美味しいコーヒーや紅茶の淹れ方だけじゃなく、「女性らしさ」とか「品格とは」みたいなこととか、とにかく、3ヶ月の間に、色々なことを教えてもらった。

先生のことや、お教室での和やかなひとときをふと思い出した私の顔に笑みが浮かんだとき、川端くんが給湯室にやって来た。

「よっ」
「おつかれさま。川端くんもコーヒー飲む?」
「ああ。って準備中か」
「うん。後で川端くんのところへ持って行こうか?」
「いや。もう少しでできそうだから待つ。それよか卜部ちゃん」
「はい?」
「あれから大丈夫だったか?」

“あれ”とはもちろん、金曜の歓迎会のことよね・・・。

「あぁうん。タクシーすぐ拾えたし、土曜にはズボンをクリーニング出したし」

正直、部長とのやりとりなんて、思い出したくもないんだけど、週末は結構思い出してしまった・・・うぅ。


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