クリアスカイ
テーブルの上に置かれた携帯が着信のランプと共に振動した。
「須藤、携帯。」
修二が窓を閉めながら指差した。須藤は携帯を開きディスプレイを確認したあと電話にでた。
「あぁ。うん、今修二んとこ。」
どうやら家からの電話のようだった。修二はちらりと時間を見て須藤が電話を切るのを待った。
「わかった。ん、じゃあな。」
「悪い。早く帰って来いって？」
修二は言葉少なに電話をきった須藤に言った。
「違うよ。今、仕事から帰ったらしくて電話してきただけ。」
「帰んないとまずいんじゃねー？」
修二は申し訳なさそうにしていた。須藤は「その逆。」と再びソファーに寝転がった。
「メシの支度するからゆっくり帰ってきていいよって話。」
その言葉に修二は胸をなでおろした。時々、うっかり忘れそうになるが須藤には家で待っている人がいるのだ。自分が原因で喧嘩にでもなられたらたまらない。だが、須藤の様子からして本当にその心配はなさそうだったので、修二は安心した。

だらりとソファーからおちかけている須藤の左手の薬指には変わらずにシルバーのリングがおさまっている。改めて須藤が結婚しているという事実に不思議な感じがしていた。
修二にはずっとまだ未来の事のように考えていた世界に須藤はいるのだ。
割と気難しい性格の須藤に結婚という男からしたらそれこそ人生が180度かわってしまう選択を決断させたその相手は凄いとさえ思ってしまう。
「なぁ、須藤。」
修二はフローリングの床に座ると呼び掛けた。
「なに？」
須藤は眠気に誘われているのか目を閉じたまま返事だけ返してきた。
「こんなに早く結婚とかして後悔しねぇの？」
修二は思ったままを口にした。
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表紙・目次

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