残業しないで帰りなさい!
久保田係長、こうして近くで見ると目鼻立ちがハッキリしていて、それがお化粧で強調されてて、本当に綺麗な人。
こういう人は、きっと自分が映える方法を知っているんだろうな。
私は全然化粧をしないから、どういう仕組みでそんな綺麗なお顔に仕上がっているのか想像もつかない。
じーっと見ていたら、久保田係長が早くしろ!と言わんばかりに片側だけ眉を上げて立ち去ったから、仕方なく急いで茶碗や茶托を用意してお茶を淹れた。
7階の給湯室と違って、4階の給湯室は綺麗に整理整頓されているなあ。そんなことを思いながらお盆にお茶を乗せて応接室へ向かう。
応接室に入ると、お客様もうちの社員もみんな席に着いて談笑していた。
「失礼します」
お茶を淹れてお出しする役割なんて、あんまりやらないから緊張しちゃうなあ。
応接室は絨毯敷きの部屋で、真ん中に立派な応接セットがドーンと置いてある。窓も大きくて光がよく入るから、商談には向いているんだろう。
私はこの部屋に入ることなんて滅多にないから、ふかふかの絨毯をパンプスで踏む変な感触がちょっとだけ嬉しかった。
商談に来ていたのは、すごく日に焼けたオジサンと若い男の人二人の計三人。若い人は茶色いくせ毛だったりして、お堅いサラリーマンって感じではない。
えっと、まずはお客様からお茶をお出しするんだよね?
その時、その色黒のオジサンのじっとり粘り気のある視線が気になった。なんか、気持ち悪いなあ。なんだろう。