残業しないで帰りなさい!

じろじろと品定めするようなオジサンの視線をできるだけ気にしないようにしながら、お茶を一つ一つ置いていく。

「綺麗にくびれて出るとこ出てるし、なかなかスタイルいい子じゃないの?」

その色黒のオジサンが舐めまわすように私を眺めながら言った。
凍りつくような悪寒が走って思わず手が止まりそうになる。

やめて……!
ゾッとする。気持ち悪い。

「恐れ入ります」

久保田係長はしれっとそう言った。

それからは、手が震えるのを抑えるのがやっとだった。こぼさないでお茶をお出しした自分をほめてあげたい。

なんとか全員分のお茶を出して頭を下げると、とにかく急いで逃げるように応接室から外に出た。

給湯室に走り込んで、何度も深呼吸をしたけれど、なかなか動悸がおさまらない。

なにあれ……?
なに、あの台詞?

……ホント、気持ち悪い。

『出るとこ出てる』なんて……ホントやだ。
思い出したら震えて、思わず首を振った。

ああ……。あの部屋にまた片付けに行かなきゃいけないなんて、すごくイヤだ。

でも、片付ける頃にはあの人たちはきっともう帰ってるよね。

うん、きっと大丈夫。

はあー……。

それにしても、あんな気持ち悪いオジサンたちと商談をしないといけないなんて、久保田係長も大変だなあ。

女性の管理職なんて、きっと風当たりも強いだろうし。あのくらい強気じゃないと男社会ではやっていけないのかもしれない。

ワンマンで強引でいい人とは言えないけど、あの人はあの人なりにきっと頑張ってるんだ。
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