残業しないで帰りなさい!
「本当に?ほら、北見さんが産休に入ったからさ、分担が増えて負担になったりしてるんじゃないの?」
へえ?さすが人事課長。よく把握していらっしゃる。
「それは大丈夫です。今は見本市の準備もあるし、今日はたまたま頼まれたことがあっただけで、私の要領が悪いだけですから」
「ふーん……。まあ、大変だったら言ってよ。何か対策考えるから」
「……はあ」
言ってよ、なんて気軽に言われてもな……。
本当に大変だと思ったとしても、そんなこと言っていいものなんだろうか。
大変だから何とかしてください!なんて、わがままじゃないのかな?
私が黙っていると、考えを見透かしたように藤崎課長は私をじっと見下ろした。
「あのね、そういう対策考えんのも俺の仕事だから。わかった?」
「え……?えっと、はい。わかりました」
「よーし!わかったらさっさと帰ってくんないかなあ。君が帰んないと俺、帰れないんだよねえ」
「えっ?そうなんですか?」
そうだったんだ。それは大変!急がなきゃ。
急いでマウスを動かしてパソコンの電源をオフにする。電源が切れたのを確認してバッグを手に取った。
「すみませんでした。失礼しますっ」
部屋の入り口で電気を消してから早口にそう言って頭を下げると、藤崎課長の横を通り抜けて小走りで更衣室に向かった。