残業しないで帰りなさい!

もし、本当にそんな接待で商談がうまくいくなら、私なんかじゃなくて、久保田係長が行けばいいのに。
私よりよっぽど綺麗なんだし。

「えっと、私なんかより、久保田係長が行かれた方がずっと効果的だと思いますが……」

小声でぼそぼそと提案すると、久保田係長は掴んでいた腕を離して目を細めた。

「私よりアンタの方が好みなんだそうよ?そうじゃなきゃ、アンタになんか頼まないわよ!」

そんな……。
好み、とかホント気持ち悪い。
イヤだイヤだ。絶対イヤ。

もしかして、あの品定めするような視線はそういうことだったの?……ゾッとする。

また背筋を寒気が走ってぶるっと震えた。

もしかして、久保田係長、そういう意図で私にお茶を出させたの?私をあの人たちに見せるために?そういうこと?
そんなの、ヒドイよ……。

「本当にすみません……。私、無理です」

「四の五の言わずに言うこと聞きなさい!」

この人の、この押し切る感じが苦手だ。

でも、無理。

これ以上は下げられないってくらい、思いっきり頭を下げた。

「本当に申し訳ないのですが、私は係長のお役に立てません」

「……なんなの?さっきもちょっといじられたくらいで、真っ青な顔しちゃって」

「すみません」

私が頭を上げると、久保田係長は不機嫌な顔で仁王立ちのように腕組みをして、上から下まで私をじろじろと見た。

課長、本当にこの人と付き合ってたの?
この人のこと好きだったの?
なんかなんか、悲しくなる。

「……はあっ、わかったわよ。嫌々行って変な対応されても困るから。はあーっ、ほんっと役立たず」

久保田さんはびっくりするほど大きなため息をついた。

「……すみません」

小さい声でまたそう言って頭を下げた。小さくため息をつく。

役立たずと言われようと、行かなくて済んだ。
本当によかった……。
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