残業しないで帰りなさい!

私が困っていると、課長は寂しそうな顔のまま笑いかけた。

「じゃあ、ご飯食べに行こう?」

えっ?ご飯?……なぜ、ご飯?
なぜそうなるの?

唖然として黙っていると、課長は私を覗き込むように首をかたむけた。

「泣かせちゃったから、お詫びにごちそうさせて」

うーん、そういうことか。

「別に課長のせいじゃありませんから」

努めて静かに言うと、課長はもっと寂しそうな顔になった。

もうっ!その顔やめて!
私が悪いことしたみたいで、罪悪感に押しつぶされそうになる。

ポーンと音がしてエレベーターが1階に着いた。

もうこのまま走って振り切ろう!

そう思って早足でエレベーターを降りて、小走りで逃げようとしたのに、課長が私の行く手をふさぐように前に走り出たから、驚いて立ち止まった。

行く手をふさぐ課長の影が大きくて、なんか、ドキドキする。

「青山さん。俺と一緒に、食事に行ってくれませんか?」

課長は丁寧にそう言った。見上げるとすごく真剣な顔。

釘付けになった。

そんな真剣な顔……ズルいよ。胸が痛い。

どうしたらいいのかわからなくてうつむいた。

「……イヤ、だよね?……ごめん」

少し擦れた課長は苦しそうな声。

そんな!イヤなわけじゃない!

そう思って、課長を見上げて素直に首を振ってしまった。
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