残業しないで帰りなさい!

ファミレスに入って案内された席は、この間の席とは別の窓際の席だった。
こっそり見上げると、ちょっと嬉しそうな顔。

心の中でそっと課長に微笑みかける。

窓際の席で良かったね。

案内された席で正面に座ると、おしぼりで手を拭きながら課長が話しかけてきた。

「怪我、たいしたことなくて良かったね」

「え?」

「病院に行くほどじゃなかったって言ってたから」

あ……、しまった。
さっきは勢いでそんなことを言ってしまったけど、本当は縫ったんだよなあ。

「はあ」

私が少し困ったように言ったから、課長は首を傾げた。

ああ!しまった。
ここは徹底して嘘をつき通すべきだったのに、迷いが表に出てしまった。

「そうでもないの?」

「い、いえ」

もうダメだ。きっとバレてる。

課長は私をじっと見たまま真面目な顔をして両肘をテーブルについた。

「本当のこと、言って」

「本当に平気です」

私がうつむくと、課長は少し不機嫌な様子で頬杖をついた。

「あの傷なら本当は縫ったんじゃないの?」

課長の声、怒ってるなあ。もう言い逃れはできなそう。

「……はい」

「何針縫ったの?」

「えっと、……5針」

課長は目を丸くして頬杖を外した。

「そんなに!それって全然平気じゃないよね?」

「……ごめんなさい」

さっき言えなかったごめんなさいを言ったら、ちょっとだけ涙がにじんだ。
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