残業しないで帰りなさい!

私はゆっくりうなずいて、どうやって話そうかしばらく考えてから口を開いた。
テーブルの一点をじっと凝視しながら、右手をギュッと握る。

「小学生の頃、5年生の時なんですけど、……変な人に襲われたんです。襲われたって言っても、首を押さえられて服をめくられただけなんですけど……。それからずっと、男の人は苦手で近づかないようにしていたというか……」

課長は何も言わずにじっと私を見て話を聞いていた。だから、私はそのまま話を続けた。

「今までは苦手なだけだったんです。それなのに、昨日あの重役さんに触られた時、なぜかリアルにあの時のことを思い出して……。思い出した、というか目の前で起こってるみたいだったというか……。あんなの、初めてでした。……あんな風に触られたのが初めてだったからかもしれません。倒れたのも初めてなんです。それなのに、課長やみなさんを巻き込んで、ご迷惑をおかけしてしまいました。本当にすみませんでした」

私がペコリと頭を下げると、課長は苦しげな瞳をして首を振った。

「謝らないで。俺がさっき、みんなに迷惑かけたなんて言ったから気にしてるの?……本当にごめん。もう、気にしないで」

課長の苦しげな瞳を見たら、私まで苦しくなって胸が痛んだ。

「課長がおっしゃったことを気にしているわけではないですし、ご迷惑をおかけしたのは本当のことですから」

「……迷惑なんかじゃなかったよ。少なくとも俺にとっては」

課長は目をそらした。どういう意味なんだろう。そんなの、なんて答えたらいいのかわからない。
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