残業しないで帰りなさい!

困惑して黙っていると、課長はテーブルに肘をついた。

「……君はその出来事のせいで、女の子って言われるのがイヤだったんだね」

「えっと……」

それはそうだけど、それだけとも言えないんだよなあ。なんて言ったらいいんだろう。

「それは……、あの、えっと……。あの事件が起きた時、義理の母から言われた言葉が、ちょっとショックで……」

「義理の母?」

「父の再婚相手です」

「ふーん。で?何を言われたの?」

「えっと……、襲われたのは私が女を意識して誘ったからじゃないの?って……。私はそんなつもり、全然なかったんですけど。そう言われて、やっぱり子どもなりにショックだったんだと思います。それから、なんとなく女の子っていうのは罪悪感があるというか……」

「なんだろう……、その言葉には、悪意を感じるな」

あ、やっぱりそう思われちゃった……。
あの出来事だけを切り取って話すと、優香さんは悪い人みたいに思われちゃう。

確かに、あの言葉は私を傷つけたけど。

「でも、その人、悪い人じゃないんです。悪気はなかったんだと思います」

課長はムッとした。

「そんなヒドイことを言われたのに、その人のことをかばうの?」

「かばうって言うか、本当に悪い人じゃないんです。それは本当なんです」

私が一生懸命になって言うと、課長はなぜかせつない瞳をした。

そんなせつない瞳、胸にグッと迫るものがあるけれど、なんで課長がそんな瞳をするのかわからない。

「……心配だよ」

「え?」

心配って何が?
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