残業しないで帰りなさい!

目を見開いたままうつむく。
見えているようで、何も見えていない。

なんで?なんだろう、これ?

なんで私、パニック?

それは……。
そう!だってそんなの、ありえない。

課長が私のことなんか好きになるわけがないと思ってたんだ。

そうだよ、だって……。

久保田係長を好きだったような人が、私を好きになるわけがない……。

急激に頭が冷えてきた。

そうだよ、そんなわけがない。
そんなの嘘。

課長、どうしてそんなこと言うの?
私のこと、からかってるの?
なんの冗談?

私はギュッと奥歯を噛んだ。

「……からかわないでください」

「からかってなんかいないよ。君のことが好きなんだ」

真剣に言ってるようにも聞こえるけど……。

「嘘です」

「そんなこと言われたら、怖いのかな?」

ん?別に怖くはない。
今はそういう論点ではないのです。

「怖くはありません」

「それとも、こんな年上のオッサンにそんなこと言われたら、迷惑?」

「そんなことありません!」

やたらと強く否定してしまった。だって課長はオッサンじゃないもの。

「じゃあ、どうして嘘だなんて思うの?」

昔の彼女の話なんてしていいのかな?
でも、私を好きだなんてやっぱりありえない。納得できない。だから、思っていることを言おうと思った。

「課長は……、久保田係長とお付き合いされていたんですよね?」

課長は目を大きく開いて、それからふてくされたように頬杖をついた。

「……俺の個人情報って保護されないのかなあ。どうせ、高野あたりが言いふらしてるんだろうけどさ」

……本当なんだ。わかっていたけど、やっぱりショック。
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