残業しないで帰りなさい!
微笑んだまま、課長は視線を落とした。
「君は……、俺が触っても大丈夫そうだったから、あの男はダメでも俺は平気なんだ、なんて勝手に都合のいいことを考えてみたり、でも、もしかしたら平気なのは今だけなんじゃないか、なんて一人で勝手に焦ったりして……。俺はね、ホントにバカになってるんだよ」
「そんなこと……」
そんなことを考えていたなんて、全然知らなかった。そんな風に私のことをいろいろと考えてくれただけでもすごい事だと思うけど……。
「答えは急がないから。ゆっくりでいいから、考えてみて。俺、ずっと待ってるから」
言葉の最後、課長は一瞬寂しそうな瞳をした。
課長は、私が課長に触れられても平気なことに気が付いてるんだ……。
そうだよね、昨日だって今日だって、私、全然平気だったもんね?
平気なのは今だけって、なんだろう。どうしてそんなこと思ったのかな?
そんなこと、ないのに。
課長は私にとって『特別』な人で、他の人と違って課長だけは触っても平気だし、今だけじゃなくてずっとずっと平気なんです。
なんて、言えるわけがなくて。
一瞬口を開いて、そのまま静かに閉じた。